「おしりのお話」  執筆 金川泰一朗

人は四足歩行から二足歩行をはじめて以来痔に悩まされています。古代のヒポクラテスの時代から、日本ではかの有名な華岡青洲先生の文献にも痔の治療に関する記載があります。

 

最近ではどうでしょう。野菜の少ない食生活、ストレスの多い長時間のデスクワークの生活では、ゆっくりとトイレで用を足す機会も失われ、おしりが泣いていませんか。

 

そう、おしりの病気は生活習慣病ともいえます。

 

おしりの困った悩みには、何かが飛び出す、切れて痛い、便秘、下痢、出にくいといった症状がありますね。肛門は口から連続した末端にあり、直腸のつぎに肛門があります。肛門の内側には痛みを感じませんが外側は知覚神経があるので痛みを感じます。

 

痔には「痔核(いぼ痔)」「裂肛(切れ痔)」「痔ろう(あな痔)」があります。一番多いのは痔核でしょう。便秘、いきみ、長時間の同じ姿勢によって肛門の血流が悪くなって静脈が拡張し、「いぼ」の様になったものです。

 

内側にできた内痔核は出血や飛び出しがありますが、痛覚がないので痛みは少ないのです。外にできた外痔核は冬場に腫れて痛んだり、また硬い便でりきんだために切れたりします。

 

内痔核の出血、軽い粘膜の飛び出しには、肛門鏡からの注射パオスクレーの硬化療法を第一選択の治療としています。出来るだけ痛みなく切らずに治すようにしています。もう少し飛び出す痔核、脱肛にはその程度によって、結紮、輪ゴム結紮、ALTA療法を行っています。

 

最近ではこのALTA療法(硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸)が盛んになって来ました。これは痛みのない所にある痔核に注射を行い、痔核を縮小し硬化させるものです。いわゆる「切らずになおす」治療法です。治療方法は薬剤を痔核に十分浸透させるために4段階注射法を行います。

 

注射による合併症(直腸狭窄・直腸漬瘍・出血)を防ぐべく、これは決められた講習を受けた医師のみが施術できます(当院は実施施設です)。日帰り手術も可能な手技です。

 

もっと飛び出ている痔核、手で戻してやらないといけない内外痔核は、皮膚や粘膜が伸びきっているので、原則取ってやらないと治らないとご理解ください。当院ではメスで切らずに、古典的療法として結紮を行い、時間をかけて治療します。肛門機能を損傷せず、手術後の痛みが少なくなるようなお薬を使用し、坐剤、緩下剤、鎮痛剤を服用します。

 

もっともっと肛門から飛び出たような直腸脱も治療します。骨盤底の筋肉が衰えた高齢の方が多いです。手術は負担がかからないように、肛門からの手術を行っています。

 

痔ろうは肛門の周囲が化膿したもので腫れて熱をもったり、膿が外にでてあな痔となったりします。痔ろうは原則的に手術が必要です。CT検査、MRI検査を行い、それぞれのタイプを判定し、切開解放、ゴムを用いたSeton法など、最新の治療法が提供出るよう痛みも少なくなるようにしています。痔ろうの治療は、肛門機能を失わないように専門医による診断と治療が必要です。

 

ほか肛門疾患のいくつか(裂肛など)は生活習慣の改善で予防することができます。とくに便秘で離渋される方はおしりを治す前に便秘を治すことが優先されます。当院では様々な漢方薬、緩下剤、ほか調節剤を組み合わせて、それぞれのタイプに合った服薬を行なっています。

 

最近は清潔志向の高まりから、シャワートイレを設置される家庭が多くなりました。紙だけではふき取れないときも、きれいに洗ってさらっとしたお尻は気持ちいいですよね。でも最近「きれいにしているのにどこかおかしい」「いたいのだが布団に入るとかゆくもある」「汗をかいたようにじっとりとしている」「手でかくとさらに悪くなる」と相談に来られる方がふえています。

 

失礼ながらご本人は「よく洗ってきれいにしているし、私は間違ったことをしていない」と真顔でおっしゃるのですが、そこに問題があるのです。肛門周囲の皮膚はとてもデリケートにできていて、強い水が当たりすぎるとそれだけで表皮がめくれて傷ついてしまいます。

 

めくれるとリンパ液がしみ出る、うんちがついて傷から炎症を生じ、かゆくなってひっかく、ひっかくと傷が深くなって痛くなる。きれいにすれば治るだろうとまた時間をかけて洗ってしまうので、悪循環におちいります。当院では肛門周囲皮膚炎として軟膏治療します。とにかく過ぎたるは及ばざるがごとしで、シャワートイレにご用心です。

 

また「排便とは関係なく、痔でもないのにいたむような気がする」「横になっているといいけれど、立って仕事をするとずんずん重いようないたみがお尻にでてくる」と言われる方もこられます。診察しましても切れ痔、いぼ痔はありません。

 

他の病院でも「なんにもないよ」と言われたりします。でもよくよくお尻から触れますと、尾てい骨の上から出ている仙骨神経にいたみがあることがありまあす。仙骨神経障害による症状です。この疾患を知る医師も少なく、なかなか難しく、専門医による診断と治療を要します。

 

排便のたびごとにいぼ痔を押し戻していた世話から開放されたり、たつた一回の治療で長かった出血から開放されたり、ゴルフのアドレス時にも痔がでていたのが集中できるようになったとか、どうしてもっと早く来なかったのだろうと、その歓びを感謝としてよく口にされます。早めに手当てをされますようお待ちしております。

 

最後に、肛門科領域の専門医は多くありません。「痔=おしりの病気=恥ずかしい」はよくわかります。思い切っての来院をお待ちします。

 

執筆 -writing-

 

   堺山口病院 [副院長] 金川泰一朗 「おしりのお話」

 

堺山口病院